テレビはインターネットがなぜ嫌いなのか


著者:吉野 次郎  出版社:日経BP社  2006年12月刊  \1,575(税込)  207P


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今週のニュースで「楽天とTBSが委任状争奪戦を開始」と報道していました。
両者の対決の背景には、「通信と放送の融合」があります。楽天がTBSの株を大量取得し、インターネットと放送をもっと融合しようと呼びかけているのに対し、TBS側があまり乗り気ではなく、買収防衛策を強化しようとしている。そんな買収防衛策は取り下げろ、というのが楽天の要求で、委任状を多く集めたほうの主張が、6月の株主総会で認められることになります。


放送業界がIT業界のアプローチに拒否反応を示すのは、今にはじまったことではありません。
ホリエモンがフジテレビを買収しようとした一昨年(2005年)の事件は記憶に新しいところですが、1996年には、孫正義テレビ朝日に資本参加しようとしたこともあります。
いずれも、テレビ業界は、「放っておいてくれ」という態度を貫きました。


今回で3回目になるインターネット側からのラブコールに対しても、TBSは拒否する姿勢を明らかにしています。


なぜ、そんなにテレビはインターネットが嫌いなのか。
本書では、日本のテレビ業界がどのようにしてビジネスを拡張してきたか、その富の源泉は何かを明らかにし、この疑問の答えを明らかにしています。


テレビ業界は、50年かけて現在の位置を築きました。
NHKと民法では立場が若干違いますが、民法のビジネスモデルは、番組製作費をスポンサーに出してもらい、それ以外にスポットCMで荒稼ぎするという方式で、年間2兆円の市場――著者のいう“おいしいビジネス”を手にしてます。


その強さの源泉は、高額な予算で作成する上質のコンテンツ(番組)です。
限られた電波に乗せて送るからこそ視聴者が1日に何時間も夢中になってみてくれる。それを、インターネットで何時でも見られるようになったら、テレビの魅力は失われ、黄金のニワトリを手放すことになってしまう。


芸能界も、テレビ局の興隆と共に成長してきました。
本書でも言及しているように、たとえばお笑いタレントがヒエラルキーを登りつめるモデル(スズメの涙のギャラでスタートしたあと、人気が出るに従って1番組あたりの単価が上がり、大御所が司会をした番組になると、1番組で数百万円の出演料になる)は、芸能プロダクションとテレビ局が保証してくれる業界の仕組みなのです。


しかし、いつまでも旧態依然の経営方法で良いのでしょうか。


日本中の人々を映画館に引きつけて栄華を誇った日本映画界は、テレビに客を奪われて、衰退の道をたどりました。


1日あたりのインターネット利用時間とテレビ視聴時間を比べると、まだまだ圧倒的にテレビが勝っているとはいえ、HDDレコーダーの普及に伴い、CM飛ばしが当たり前になってきています。
インターネット広告費がラジオ広告費や雑誌広告費を上回ったように、テレビ広告費を食い荒らす事態が、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。


テレビもインターネットも目が離せなくなりそうな、刺激的な一書でした。